noa no atamannaka

フェミニストの読書記録、映画記録、考えていること

ハンチバック

過ぎ去りし7月はdisability pride monthだった。

この言葉に馴染みのない人も多いかもしれない。

障がい、というか何かしらのハンデを持っている人たちのためのプライド月間といったところだろうか。

 

思えばタイトルにした『ハンチバック』の主人公はミオチュブラー・ミオパチーなのであってdisabilityと言う言葉こそしっくりくるが「障がい」と言うワードはふさわしくないのではないのかもしれない。

 

慎重に言葉を選ばないと自分の偏見が露呈しそうで非常に緊張するのだけど、あえてこの話題に触れたい。というか触れないわけにはいかない。

理由は、覚えていれば次の回に詳しく書きたいと思う、

手短に言うとやまゆり園事件から7年経ってようやく自分がこの問題について考える余力ができたからだ。

やまゆり園事件は知的障がいの方たちの事件なので、タイトルにした本である身体にハンデがある人の問題とはまた結構問題が違うのだが、まず今回は身体にハンデのある人について自分の中の醜い、未熟なものと向き合いたいと思った。

 

 

 

自分は今、目は悪くても眼鏡で矯正できるレベル、四肢が残っている、聴覚も問題ないという「健常者」の立場にいる。

つまり健常者としての特権に大いに無自覚であったことを、先日芥川賞を受賞した市川沙央(さおう)さんの『ハンチバック』を読んで痛感した。

 

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テレビでも紹介されていた箇所をここでも抜粋したい。

 

 私は紙の本を憎んでいた。目が見えること、本が持てること、ページが捲れること、読書姿勢が保てること、書店へ自由に買いに行けること──5つの健常性を満たすことを要求する読書文化のマチズモを憎んでいた。その特権性に気づかない「本好き」たちの無知な傲慢さを憎んでいた。

 

 

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ハンデを持つ人とのロマンティックな関係を絵描いたドラマはよく見かけるけれども、

残酷なことを言うと、その物語に出てくる人たちは「かわいい」。

ハンデを負っているがルッキズムが蔓延るこの社会においては強者である人が物語に主人公になっていることをどうしても思わずにいられない。

(こんな言葉が出てくるのは何より私がルッキズムに侵されていることを否定できない。)

 

 

『ハンチバック』はルッキズムについても深く抉っていると思う。

主人公である釈華(ネーミングセンスが最高)が自身のことを何度も『わたしはせむし(ハンチバック)の怪物だから』と言っている。

 

釈華は誰も見ていないであろうアカウントで

「生まれ変わったら高級娼婦になりたい」とつぶやく。

また、「中絶がしてみたい」とも書く。炎上しそうだと言う理由で一度はSNSではなくEver noteに保存した文章。

「出産はできなくても、堕胎までは追いつきたかった。」

 

 

多分実際にSNSに投稿したら、釈華さんが予想したように炎上しそうだ。

「妊娠したくてもできない人の気持ちに配慮していない」と。

でも今は妊娠したくてもできない人の話ではなく、背骨が極度に湾曲している釈華さんの話をしている。

 

数が少ない人の声はこんなにもかき消されやすい。

後回しにされやすい。

当事者ではない人たちが勝手に外野からジャッジする。

「〇〇が言っていることの方が尊重されるべき気持ちだ」などと。

 

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自分が生まれてから今まで、ハンデを持つ人たちに対して思ってきたことはなんだろうか。昔は周りの大人たちがいう「かわいそう」と言うワードに大いに影響を受けていたと思う。「かわいそう」だから「助けてあげないといけない」と。そして「自分がそうじゃなくてよかった」と。でも、自分がいつまでも「健常者」でいる保証はどこにもない。

 

私はこの文章を、眉を顰めて「障がい者についてもっと考えてあげなければ」なんて上から目線でもっともらしいことを言っていい人ぶるために書いたんじゃない。

 

自分の恥部と向きあいたくて書いた。

問題はハンデを持つ人たちではなく、

この世の過半数を占める、ハンデを持たない人たちの傲慢さ(私を含む)にある。

 

ハンデを持つことが怖いのは、不便だからと言う以上に

「そうなると蔑んだ目で見られる、憐れみの目で見られる」の気持ちが強い。

あなたもそうじゃなかろうか。

もし、ハンデを持つことで単純に「できないことが増えるだけ」であり、「そうなったら当然助けてもらえる社会」なのであれば、「憐れみの目で見るやつの方が人として恥ずかしいやつ」という常識の社会なのであれば、

ハンデを持つことは怖くなくなるんじゃないか。

 

 

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